土地・不動産
血縁関係はないが、現在お世話になっている人に財産を相続したい
血縁関係のない人に自分の財産を相続することはできる?
お世話になった人や知人に財産を相続したいという希望を持っている方もいるかと思います。
法律では基本的に配偶者や親族に財産は相続されると決まっていますが、第三者に財産を渡す方法として、「遺言書」を思いつく方は多いでしょう。その他にもお世話になった人などの相続人以外に財産を渡す方法として「生前贈与」と「死因贈与」があります。
今回は、「遺言書」「生前贈与」「死因贈与」のそれぞれの方法についてご紹介します。
「遺言書」で第三者に財産を渡す
相続では、亡くなった方の財産を引き継ぐ権利があるのは基本的には法定相続人という一部の親族になります。しかし、遺言は法定相続より優先されるので、遺言書を書いておくと、遺産の分割にご自身の意思を反映させることができます。
遺言によって財産を譲ることは「遺贈」といいます。遺言書に財産を渡したい人と渡す財産を指定しておくことで遺贈をすることができます。遺贈の相手はお世話になった人や知人など誰でも指定できます。遺贈には、「財産の2分の1を遺贈する」というように渡す財産を特定せず、割合を指定する「包括遺贈」と、「○銀行の預貯金を遺贈する」というように相続財産の中から特定の財産を指定する「特定遺贈」の2種類があります。
法律上、遺贈は相続税の課税対象となります。亡くなった方の財産が基礎控除額を超える場合は相続税が発生します。相続人以外が遺贈を受けた場合、相続税が通常より2割加算になるという点に注意が必要です。
不動産を相続人以外へ遺贈した場合は、不動産取得税が土地と家屋(住宅)に固定資産税評価額の3%(※非住宅の家屋は4%)、登録免許税が2%かかります。
遺贈をするメリットは次の2点です。
「遺贈者の意思だけで決めることができる」
「亡くなるまで遺贈のことを秘密にできる」
遺言は故人の一方的な意思表示であるので、受け取る側の了承は必要ありません。
そのため、遺言書を誰かに読まれないよう気をつければ、自身が亡くなるまで秘密にすることができます。
遺贈には以下のようなデメリットもあります。
「受け取る側が拒否できる」
「遺言が無効になる恐れがある」
財産を受け取る側は遺贈を放棄する権利があるので、場合によっては財産を渡せない可能性もあります。
また、遺言書には厳格なルールがあるため、些細なミスが1つでもあると無効になってしまう場合があります。作成する際には、司法書士などの専門家に相談するのがおすすめです。
「生前贈与」で第三者に財産を渡す
「生前贈与」によって第三者に財産を渡すという選択肢もあります。
生前贈与とは、その名の通り、生きている間に自分の財産を誰かに贈ることです。財産を渡す側が財産を無償で与える意思を示し、受け取る側が了承することにより贈与が成立します。
一般的な生前贈与の他に、定期的に一定の財産を贈与する「定期贈与」や、贈与する人が受け取る人に対し、「家を贈与する代わりに住宅ローンを支払う」といった負担を課す「負担付贈与」などがあります。
生前贈与は贈与税の課税対象となります。年間110万円までの非課税枠があるので、贈与を受けた額が1年間で110万円を超えた場合、贈与税が発生します。不動産を贈与した場合は、不動産取得税が固定資産税評価額の3%、登録免許税は2%で計算されます。
生前贈与を行うメリットは「好きなタイミングで財産を渡すことができる」という点です。
遺贈と死因贈与は死後にまとめて財産を譲ることになりますが、生前贈与では、贈与者が誰に贈るか、いつ贈るかを自由に決めることができます。贈る時期を選べるのは大きなメリットでしょう。
生前贈与のデメリットとしては、「贈与から3年以内に贈与者が亡くなると贈与した財産も相続税の対象となる」という点が挙げられます。
生前贈与をしたとしても、贈与者が亡くなってしまうと、死亡時から3年以内に贈与された財産は相続財産とみなされ、相続税が課せられます。
「死因贈与」で第三者に財産を渡す
3つ目の方法は「死因贈与」です。
死因贈与とは、生前に財産を渡す人と受け取る人の間で「贈与者が死亡したあとに、事前に指定した財産を贈与する」という贈与契約を結ぶことをいいます。
死因贈与は契約の1つなので、贈与者の意思だけでは成立せず、渡す側ともらう側の意思が一致している必要があります。遺言のような形式的な行為は必要なく、口頭でも契約が成立します。死因贈与にも生前贈与のように財産を贈与する代わりに、義務や負担を課す「負担付死因贈与」があります。
死因贈与は贈与契約ではありますが、死亡によって効力が発生するので、相続税の課税対象となります。相続税の計算方法は遺贈の場合と同様です。
死因贈与のメリットは「放棄されることがない」という点です。
死因贈与は財産を渡す人と受け取る人の合意により成立しているため、贈与者の死後に成立した契約を放棄することはできません。
贈与者にとっては、財産を必ず渡すことができます。また、書面でなく口頭で行っても成立します。実際は、口約束ではトラブルが生じやすく死因贈与の存在を証明することが非常に難しいため契約書を作成するのが一般的ですが、遺言書のように厳格なルールはないので、契約書に多少の不備があっても無効になるリスクは遺言書に比べ低いです。
死因贈与のデメリットは
「負担付死因贈与では契約を撤回できないケースがある」
「口頭でも成立するが証明が困難である」
という2点です。
基本的には贈与者の死亡前なら贈与者の意思で撤回ができますが、負担付死因贈与においては、義務や負担が履行されていると撤回が難しくなるということがあります。また、前述した通り、口頭で死因贈与をしても成立しますが、書面が残っていない契約を全ての相続人に証明し納得してもらうことは非常に困難です。
遺留分に注意
「遺贈」「生前贈与」「死因贈与」のどの方法を選んだとしても「遺留分」に注意しなければなりません。
兄弟姉妹以外の法定相続人には最低限の遺産取得分である「遺留分」という権利があります。
遺贈などを行った結果、遺族に残された遺産がこの遺留分より少なくなってしまうと、最低限の遺産の取り分(妻や子の場合、法定相続分の2分の1)を請求される場合があります。遺贈と死因贈与は遺留分請求の対象です。生前贈与についても受け取る人が相続人以外のときは、基本的に相続開始前の1年以内に行われた生前贈与が遺留分請求の対象となります。
財産を渡す際は、遺留分に十分な注意を払って、渡す財産や額を決めていく必要があります。
まとめ
今回は、お世話になった人や知人など血縁関係のない第三者に財産を渡す方法として「遺贈」「生前贈与」「死因贈与」と3つの方法を紹介しました。
それぞれにメリットやデメリットがあり、課税される税金や必要な費用も異なります。どの方法を選ぶべきかは、それぞれの違いや特徴を理解した上で検討する必要があります。その人の事情によっても異なるので、ご自分で判断するのが難しい場合は司法書士等の専門家に相談してみるとよいでしょう。